休日の背中
たみ、45歳。長男のタローは16歳、次男のジローは14歳になった。週末が来るたび、私の心には鉛のような重さがのしかかった。夫のタダシは、休日もよく職場に出勤した。 もちろん、緊急の呼び出しがあった日もあったが、正直なところ、呼び出しがないのに、わざわざ出かけていくことも少なくなかった。どちらにしても、家族にとって、それが「家族のため」とは言い難い状況だった。その習慣は、結婚した当初から変わっていない。
出勤しない日は、子どもたちを連れて自転車で近所の銭湯へ行ってくれた。帰りには決まって焼き鳥かたい焼きを買って帰ってくれる。子どもたちはそれを楽しみにしていて、タダシの帰りを心待ちにしていた。その光景だけを見れば、良い父親に見えるだろう。
次男のジローがまだ乳飲み子だった頃、一度だけ、タダシにタローを連れて公園で遊んできてほしいと頼んだことがあった。夜泣きと授乳で寝不足が続き、へとへとだった私は、本当に少しの時間だけでも一人になりたかったのだ。その時、彼は不満そうに「みんなでいかないのか」と聞いてきた。私が「自宅にいる」と答えると、彼は明らかに機嫌悪そうにタローの手を引いて出かけて行った。その時、私は悟った。彼は、私のことを分かろうとしていない。いや、きっと、自分のことにしか興味がないからだろうと。
「自動車を運転した」
月日は流れ、ある日、彼は会社の車に乗って仕事に出かけて行った。しかも、助手席には長男のタローを乗せて。
私は正直、気が気ではなかった。仕事をやっている間、まだ未成年であるタローはどうしているのだろうか。危険な目に遭わないか、退屈していないか。様々な不安が頭をよぎった。けれど、私は何も言わなかった。夫がやりたいようにやらせておいた。彼を止めたところで、きっと彼は耳を貸さないだろう。そして、私の不安など、彼の思考には存在しないのだろうと思った。
夕方、彼とタローが帰ってきた。タローは玄関を開けるなり、興奮した面持ちで私に言った。
「お母さん! 俺、自動車を運転した!」
「ん?」
私の声は、驚きと呆れが混じっていた。冗談だろう。まさか、そんなことを許すはずがない。しかし、タローの目は真っ直ぐで、嘘をついているようには見えなかった。彼は、運転席に座り、アクセルとブレーキを教えてもらったという。もちろん、公道ではないにしても、会社の敷地内でとはいえ、まだ免許も持っていない子どもに運転をさせるなど、私には考えられないことだった。
タダシは、タローの言葉を聞いて、ただニコニコと笑っている。彼の表情には、何の悪気も罪悪感もないように見えた。彼にとって、タローとの「特別な体験」であり、自分自身の「休日の過ごし方」の一つなのだろう。彼の頭の中では、それが家族との絆を深める行為だとでも解釈されているのかもしれない。
この日も、彼の休日は自分のことばかりだった。私の不安も、子どもの安全も、彼の「やりたいこと」の前では、すべてが二の次なのだ。私は、心の中で深くため息をついた。彼のこの姿勢が、これからも変わることはないのだろう。私は、もう諦めるしかないのかもしれない。

※この物語はフィクションであり、登場人物や団体名は架空のものです。実在の人物とは一切関係ありません。
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