消えたくびれ
民、49歳。長男のタローは20歳になり、次男のジローも18歳になった。子どもたちが自立に近づくにつれ、私は昔のことを思い出す時間が増えた。結婚する前のこと。私は養護施設で住み込みの保母をしていた。幼稚園教諭の免許を取り、20人近い子どもたちを5人の先生たちが交代で見ていた。先輩も後輩も関係なく、互いを「お姉さま」と呼び合っていた。2歳以下の小さな子から、中学生くらいまで。中には障害があったり、家族から見捨てられたりした子もいた。厳しいけれど、やりがいのある日々だった。
その仕事を結婚を機に辞め、私は専業主婦になった。結婚した後、夫のタダシから「仕事したら?」と言われたことがある。その言葉に、私は怒りを感じた。子育ての大変さを知らないから、そんな心ない発言ができるのだろうと思った。私はきっぱりと断った。子育ても、家族を養うのも、本当に大変なのだ。タダシの限られた給料でやりくりするのは骨が折れる。だが、いらないものを買わなければ、質素でも体にいいものを子どもたちに提供することは可能だ。
「太ったな」
しかし、タダシは違った。仕事のストレスからか、会社ではカップ麺や菓子パンばかりを昼食にしているようだった。結婚する前は、ウエストにしっかりとしたくびれがあったはずなのに、いつの間にかそれが消えていた。
ある日、洗濯物をたたんでいる時、タダシのシャツのウエスト部分が、以前よりも格段に大きくなっていることに気づいた。彼の背中を見た時も、以前のような筋肉の張りはなく、ぶよぶよとしているのがわかった。
私は、声には出さなかったが、心の中で強く思った。**「太ったな」**と。
男性たちは、よく「幸せ太り」などと言い合っているのを聞く。だが、私にとっては、そんな悠長な話ではなかった。千年の恋も興ざめだ。私自身が健康に気を遣い、食生活を管理しているのに、彼がそれを無碍にしているように感じられた。彼の体型が変化していくにつれ、私の中の何かも、少しずつ冷めていくようだった。
筋肉質であればまだしも、ぶよぶよとした背中には、触れたいとも思わなかった。私たちは、夫婦として共に暮らしているけれど、その距離は、日に日に遠くなっているように感じられた。彼が自分の健康に無関心であること、そしてその変化が、私の中の彼への感情に影響を与えていること。彼は、きっと気づいていないだろう。そして、気づこうともしないだろう。

※この物語はフィクションであり、登場人物や団体名は架空のものです。実在の人物とは一切関係ありません。
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