新居に引っ越して数ヶ月が経った頃、私たち夫婦は自家用車を買うことを決めた。たみ、29歳。夫のタダシは2歳下。結婚前は私の軽自動車があったけれど、もう古くて、結婚の一年前に廃車にしていた。タローが生まれる頃には、やはり車が必要になるだろうと、漠然と思っていたのだ。

週末のたびに、私たちは自動車ディーラーを巡った。トヨタ、日産、ホンダ、三菱。どこに行っても、私はすぐに「これだ」と心の中で決めることができた。流線型のデザイン、CMで見た颯爽とした走り、内装の色合い。私の判断基準は、そんな直感的なものだった。

しかし、タダシは違った。彼は展示車の周りを何度も回り、カタログの隅々まで目を凝らし、質問攻めにする。エンジンの性能、燃費、安全機能、メンテナンス費用……。調べればわかること、調べてもわからないことを、いちいち天秤にかけて、まるで客観的な評価を下そうとしているかのようだった。

「ねぇ、これ、どう?」私が指さす車に、彼は眉間にしわを寄せる。「うーん、でも、こっちのほうが馬力があるし、値段もそこまで変わらないんだよな」彼の言葉に、私は内心ため息をついた。きっと、彼の頭の中には、複雑な計算式が駆け巡っているのだろう。私たちの意見が合うはずがない。判断基準が、あまりにも違いすぎるのだから。

何度ディーラーに足を運んでも、タダシは決断できなかった。私はだんだん、どうでもよくなってきた。正直なところ、どの車だって、私たち家族を乗せてくれるならそれでいい。タローが生まれたら、チャイルドシートを乗せて、スーパーへ行って、公園へ行って……。そんな日々の光景を想像するだけで、私の心は満たされた。

ある日の午後、タダシが仕事でいない間に、私は決断した。一人でディーラーに電話をかけ、私が気に入っていたあの車種、あの色を契約したのだ。納車の日取りが決まり、私はタダシに連絡した。

「あのね、車、決めたから。今度の週末、納車だって」

電話口の向こうで、一瞬の沈黙があった。そして、タダシの声が、少し不機嫌そうに聞こえた。「え? 僕抜きで?」

週末、真新しい車が我が家の前に停まった時、タダシは一瞬、嫌そうな顔をした。だが、その表情はすぐに変わった。運転席に乗り込み、ハンドルを握り、真新しいシートの感触を確かめると、彼はたちまちニコニコと笑い始めた。

「おお、やっぱりいいな、これ! 思ってたより広いし、乗り心地も良さそう!」

その笑顔を見て、私は心の中でそっと安堵した。結局のところ、彼も新しい車を喜んでくれたのだ。これから、この車が、私たち家族のたくさんの思い出を乗せて走っていくのだ。タローが生まれて、ジローが生まれて、家族が増えていく。この車は、私たちの新しい生活の始まりを告げる、希望の塊のように見えた。

もっとコミュニケーションを取りたい

※この物語はフィクションであり、登場人物や団体名は架空のものです。実在の人物とは一切関係ありません。
※このブログは 電話占い【ココナラ】 もう、一人で悩まないで の提供でお送りしています。



おすすめ記事