私、たみ、41歳。長男のタローは12歳、次男のジローは10歳になった。長野県佐久市の賃貸マンションに引っ越して二年目の夏休み、私たちは家族で糸魚川市へ向かった。一泊二日の旅、日曜から月曜にかけての短い日程だったが、お盆シーズンとあって、高速道路は行きも帰りも見事な渋滞に見舞われた。
それでも、車中ではタローとジローが、これから始まる旅に期待を膨らませ、賑やかに話している。後部座席には私の父が座っていた。彼は、孫たちとこうして旅行に行けることを、心底喜んでいるようだった。
糸魚川市に着くと、私たちは早速観光を楽しんだ。ここはヒスイが採れることで有名だと聞いていたので、海岸べりまで行って、家族みんなで石を拾い集めた。波打ち際にしゃがみ込み、タローとジローが無邪気に石を探す姿を、父は優しい眼差しで見守っていた。タダシもまた、子どもたちと一緒に、夢中になって石を探していた。
夕方、予約していた宿に到着した。広々とした座敷の部屋に案内され、私は心底ホッとした。普段、家事と育児に追われる私にとって、温泉宿はまさに至福の場所だ。夕食の準備も、風呂の準備も、何もしなくていい。ただ、この瞬間を楽しむだけでいいのだ。
夕食後、タダシが「子どもたちを大浴場とホテル内の探検に連れて行くよ」と言ってくれた。私はその言葉に甘え、一人でゆっくりと部屋で過ごした。彼が子どもたちを連れて行ってくれるのは、本当にありがたかった。父は、孫たちが楽しそうにはしゃぐ姿を見ているだけで、満足そうに微笑んでいた。
消灯までロビーで
子どもたちが寝静まった頃、タダシは突然、パソコンを抱えて部屋を抜け出した。「仕事が残っているから」と、彼は言った。私は「疲れているだろうに」と心配しながらも、彼の仕事に対する責任感の強さを感じていた。
翌朝、彼に昨夜のことを尋ねると、ロビーで消灯になるまで仕事をしていたという。その言葉を聞いて、私はふと思った。彼はいつも、こうだった。同じ空間にいるようで、どこか気持ちは上の空なことが多かったのではないか、と。私の愚痴を聞いてくれないのも、家族のために貢献しないように見えるのも、すべて、彼が「仕事」や「ボランティア」という大義名分の下で、自分の心と向き合わないように逃げていたからではないか。彼の体はここにいても、心は常に別の場所にいる。そんな彼との関係性が、私の孤独感を深めていたのかもしれない。
旅の最後に、実家へのお土産として、父が好きなお酒を買った。帰りの高速道路も渋滞していたが、車内は穏やかな空気に包まれていた。父は、タローとジローの楽しかった思い出話に耳を傾け、時折笑顔を見せている。タダシは、いつものように黙って運転していたが、時折ルームミラー越しに子どもたちや父の様子を確認していた。
今回の旅行は、私にとって、束の間の安らぎであり、父と孫たちの触れ合いを見ることができた貴重な機会だった。そして、タダシの物理的な存在と精神的な不在を改めて感じさせる旅でもあった。この関係は、これからも変わらないのだろうか。私は、車窓から流れる景色を眺めながら、そんなことを考えていた。

※この物語はフィクションであり、登場人物や団体名は架空のものです。実在の人物とは一切関係ありません。
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