バーチャルの壁
たみ、43歳。長男のタローは14歳、次男のジローは12歳になった。子どもたちの成長と共に、私と夫、タダシの間の溝は、深まるばかりだった。特に、彼の趣味に関しては。
タダシの趣味は、彼の職業柄、もっぱらパソコンやスマートフォンをいじることだった。私には、彼が画面の中で何をしているのか、具体的には全く分からない。けれど、彼が現実から目を背け、現実逃避していることは、痛いほど伝わってきた。
彼はいつも、私には分からないだろうとでも思っているのか、必死に「仕事」をしているふりをする。真剣な顔でパソコンの画面を見つめ、指を滑らせる。しかし、その中身がどうせゲームや、バラエティー番組のようなコンテンツであることは、私には想像できた。パソコンを触っていれば、傍から見れば、まるで最優先の仕事に没頭しているように見えるからだろう。
以前、バーチャルな世界ではなく、リアルな趣味に没頭したことがあった。それは、半田付け作業だ。毎晩のように、リビングの隅で小さな部品を精密に半田付けする彼の姿を見て、私はてっきり仕事関連のことだと思っていた。新しい機械の開発でもしているのだろうと。
しかし、数週間後、彼が私に見せてくれた出来上がったものを見て、私は唖然とした。それは、手のひらサイズの小さなクリスマスライトだったのだ。精巧に作られてはいたが、どう見ても仕事とは無関係な、単なる趣味の産物。その瞬間、私の心に、冷たい風が吹き抜けた。
彼は、自分が仕事をしているように見せかけるのが得意だ。そして、どうせ私には見破られないだろうと、趣味もまた、他人が理解しにくいバーチャルなものを選んだように思う。学生時代は、プラモデルにはまっていたと聞いたことがある。私は全く興味がないので、その話を聞いてもすぐに忘れてしまっていたけれど、プラモデルのような具体的な趣味の方が、よっぽど分かりやすくて私には良かった。
見えない壁
タローもジローも、思春期に入りつつある。彼らは、父親がいつもパソコンやスマートフォンをいじっている姿を見ている。それがどんなに仕事のように見えようとも、子どもたちは敏感だ。本当に大切なことと、そうでないことの区別は、彼らなりについているだろう。
私は、彼が家庭を顧みず、自分の趣味ばかりを優先していることに、深い不満を抱いていた。彼が家族のために何かをしてくれることは、ほとんどない。家のことも、子どものことも、私に任せきりだ。そして、彼の「仕事」という名の現実逃避は、私たち家族との間に、見えないけれど確かな壁を築いていった。
私は、もう彼に何かを求めることもなくなった。ただ、静かに時間が過ぎていくのを待つだけだ。彼のバーチャルの世界と、私のリアルな生活は、決して交わることのない平行線のように思えた。この先、この壁が崩れる日は来るのだろうか。私は、諦めにも似た気持ちで、画面の向こうにいる彼を見つめていた。

※この物語はフィクションであり、登場人物や団体名は架空のものです。実在の人物とは一切関係ありません。
※このブログは 電話占い【ココナラ】 もう、一人で悩まないで