たみ、27歳。IT企業に勤める夫、タダシは2歳下。私たちはいわゆる「事実婚」状態だった。正確には、私がそうしたかっただけかもしれない。彼は結婚に対してあまりにも無頓着で、私だけが焦っていたような気がする。


タダシは、就職時に買ったというスーツをいつまでも着ていた。見るからにヨレヨレで、彼の年齢をはるかに超えたおじさん臭を漂わせている。会社ではどんな目で見られているんだろう。会社の同僚と話すとき、彼のスーツが恥ずかしくて、思わず目を逸らしたくなることが何度かあった。

「ねぇ、タダシ。そろそろスーツ、買い替えようよ」

ある日、私が切り出すと、彼は案の定「いらない」とぶっきらぼうに答えた。彼の服装に対する無関心さは、もはや一種の才能とすら言えるレベルだった。でも、このままではいけない。彼のためにも、私のプライドのためにも。私は決意した。彼の外見は、私にとっての投資なのだ。

幸い、私の高校時代の同級生がスーツ専門店に就職していた。彼女に連絡を取り、半ば強引にタダシを連れて店を訪れた。彼は不満そうに腕を組み、店に入った瞬間から早くも帰りたいオーラを放っていた。

「いらっしゃいませー!」

同級生は、プロの笑顔で私たちを迎えてくれた。彼女は私の意図を察してくれたのか、タダシに似合いそうなスーツを次々と選んでくれた。私自身、男性のスーツの良し悪しなんてさっぱり分からないけれど、同級生が勧めるものはどれも洗練されていて、見ているだけでも気分が上がる。

タダシは渋々試着室へ。数分後、出てきた彼を見て私は息を呑んだ。

「すごい…!」

今まで見てきた彼とはまるで別人だった。肩幅もぴったりで、ウエストラインも綺麗に出ている。まるで生まれ変わったようだ。これぞ投資の醍醐味! 彼の戸惑ったような表情も、どこか新鮮に見えた。

しかし、彼は私が良いと思ったスーツには見向きもせず、妙にダボっとした、昔の彼のようなスーツばかりを選んで試着する。そして、どれがいいか悩んでいる。信じられない。

「こっちの方がいいってば!」

思わず口調が強くなる。同級生も苦笑しながら、私の意見にそっと賛同してくれた。最終的に、私が選んだ3着のスーツと、それに合うネクタイを5本選んだ。もちろん、支払いはおごった。彼への投資なのだから、惜しむ理由はない。

これで彼が会社に行っても恥ずかしくはないだろう。そう安心したのも束の間だった。

週末に彼と会うと、彼のファッションセンスは相変わらず壊滅的だった。夏なのに冬服のような厚手のジャケットを羽織っていたり、冬なのに半袖だったりする。せっかく買ったスーツも、ちゃんと着ているのか不安になった。彼はスーツを着こなすというより、スーツに「着られている」という表現がしっくりきた。

「もっとおしゃれに気を遣ってほしい」

心の中で何千回もそう思った。これはもう、結婚して彼の生活に介入するしかないのではないか。彼の意識を変えるには、一緒に暮らすしかない。そう確信した。

結婚する前に、彼の家に上がり込んでみた。彼の食生活がどんなものなのか、私の料理が彼の口に合うのかを試すためだ。休日の夕食を一緒に食べる。私の手料理を美味しそうに食べてくれる彼の姿を見て、少しずつ未来が明るく見えてきた。もちろん、お泊まりはしなかった。これはあくまで「偵察」なのだ。

彼の住処がどんな散らかりようなのかもチェックした。部屋の鍵をもらっていたので、彼が仕事の日を狙って、昼間に抜き打ちチェックをした。

「…何もない」

それが率直な感想だった。家具も少なく、生活感がない。ある意味、散らかりようがない部屋だった。それでも、私が来たことを暗に示すように、玄関の靴をきちんと揃えておいたり、タオルや歯ブラシを新しくしておいた。私がいないときに彼が気付いてくれるといい。彼が気づいたときのことを想像するだけで、私の心は温かくなった。

彼を変えたい。もっと素敵な男性になってほしい。その気持ちは、彼への愛情と同じくらい大きかった。そして、私はその「投資」を惜しむつもりはなかった。

一人の方が気楽なのでは?

※この物語はフィクションであり、登場人物や団体名は架空のものです。実在の人物とは一切関係ありません。
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